調査報告

投資系セミナーに行ってわかったこと

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その“自由な働き方”、本当に自由ですか?

――投資系セミナーに潜入して見えた勧誘のリアル

はじめに

「副業で月収50万円」「スマホ一つで自由な働き方」「今の時代、稼げないのは情報弱者」
そんなキャッチコピーがSNS上に溢れている。誰もが不安を抱えながらも、“今よりマシな未来”を探している時代だ。
そして、その「焦り」や「期待」を巧みに刺激するセミナーが後を絶たない。

今回、ある依頼を受けて潜入したのは、まさにそんな“投資系副業セミナー”。
言葉は前向きで、雰囲気は穏やか。だが、その中には「確実に誰かの不安を消費する構造」があった。

依頼の背景と潜入の目的

依頼をしてきたのは、30代の女性。
「妹が最近、“自由な働き方”をしたいと言い始め、あるセミナーに参加するようになった。本人は前向きだが、明らかに金銭感覚や話す内容が変わってきていて心配」とのことだった。

実際、妹さんは毎月のように3万〜5万円の“自己投資”を行っており、家族に対しても「一緒にセミナー受けない?」と勧め始めていた。
依頼者の希望は明確だった。「本人を責めたいわけじゃない。ただ、何が起きているのか知りたい」

そこで我々は、問題のセミナーに一般参加者として申し込み、現場に潜入することとなった。

セミナー概要と初期印象

会場は都内の貸し会議室。雑居ビルの一角にある、やや古びたレンタルスペースだった。
受付には2人のスタッフ。参加者は20名弱で、女性の割合がやや多い。年齢層は20代後半〜40代が中心だった。

受付では氏名とともに、簡単なアンケートが配布された。
内容は「現在の職業」「月収」「副業経験」「今の生活への不満点」「1年後どうなっていたいか」など、表向きはマーケティング調査風だが、
実際にはこの情報が“個別フォロー”の下地として使われる構造だと予想された。

全体の雰囲気は、意外にも明るくフレンドリー。強引さや違和感は一切なく、「セミナーに初めて来た」という人でも違和感なく座れるような空気が用意されていた。

心理誘導の構造(前半)

司会を務める講師は30代前半の男性。柔らかい口調で、最初にこう問いかけた。

「このまま定年まで働くとして、今のままで本当に満足ですか?」

この一言に、多くの参加者がうなずいた。

さらに続けて、参加者同士で「今、不安に思っていること」をペアで共有する時間が設けられた。

実績者トークの分析

会場がほどよく温まったところで、いわゆる「成功者」とされる女性が登壇した。
彼女は元保育士。かつては貯金も少なく、将来が不安だったが、セミナーに出会って人生が変わったという。

「最初は不安だったけど、3ヶ月で収入が3倍に。今では時間もお金も自由です」

話し方は非常に慣れており、“初心者が自然に憧れる語り口”で構成されていた。
参加者たちは真剣な眼差しで彼女を見つめ、スマホでメモを取る人もいた。

ただし、収入の内訳や実際の業務内容には一切触れられないまま、話は終わった。

プレゼン資料の不自然さ

プロジェクターに映されたスライドには、「講座生の声」としてLINEスクショや、通帳の画像のようなものが紹介されていた。

・「今月も50万達成です!本当に感謝してます!」
・「自由な働き方を手に入れて、家族との時間が増えました」

だが、名前や日付はすべてモザイク。
どれも“リアルっぽさ”はあるが、信ぴょう性を担保する情報は何もない。

一見華やかに見えるが、よく見ると“曖昧な画像で信頼感だけを補っている”ことが分かる。

クロージングの圧力と共感支配

セミナーの終盤、「本日限りのご案内」として特別プログラムが発表された。
価格は月3万円×3ヶ月、合計9万円。受講内容は「Zoom講義」「マンツーマンサポート」「LINE相談」など。

ただ、ここでも実際に“何を学び、どう収益化するのか”の中身は一切説明されない。

そして最大の特徴は、「今、決められるかどうかが人生を変える」という空気づくりだった。

「本気の人は、今ここで行動に移してます」
「人生が変わる瞬間は、だいたい“ちょっと不安な時”なんです」

強制はない。が、時間をかけて作ってきた「不安の共有」「共感」「成功の期待」によって、
参加者の判断は大きく揺さぶられていた。

潜入後に行った裏取り調査

セミナー終了後、会場外で配布されていた案内資料に記載された運営団体の情報をもとに調査を行った。

  • 住所:レンタルオフィスの登記専用サービスを使用
  • 代表名:ネット上に過去の副業系ビジネスへの関与履歴あり
  • 講座名:過去にも複数回、名称を変更しながら開催実績あり

さらに、セミナーで紹介された「成功者」とされる人物のSNSアカウントを調べたところ、
別セミナーでも「元OLから逆転人生」として登場していた過去が確認された。

内容自体が詐欺と断定できるものではないが、構造は“演出と信頼誘導”に強く依存している。

依頼者とのやり取りと報告

調査結果をまとめ、依頼者へ報告を行った。
本人は最初、「妹が騙されてるなら止めさせたい」という気持ちだったが、内容を伝えると少し表情が変わった。

「たぶん、妹は“自由になりたい”という気持ちを誰かに認めてもらいたかったんだと思います」

調査を通してわかったのは、“危うい情報にハマる心理”は決して異常なものではない、ということ。
不安、焦り、自信のなさ──誰にでもある感情が、“希望に変わるきっかけ”を探してるだけなのだ。

探偵としての所感と警告

今回の潜入で感じたのは、強引な詐欺ではない“共感型の勧誘”の巧妙さだった。

・何も否定しない
・優しく背中を押す
・一人じゃないと感じさせる

こうした丁寧な言葉の裏には、見えない圧力と期待の操作がある。
誰かの“理想の未来”を語りながら、本当は「決断を急がせる構造」が組まれている。

情報を疑えと言いたいのではない。
「なぜ自分が惹かれているのか?」を一歩引いて見られる視点を持つことが、何より大切なのだ。

まとめ

“自由な働き方”や“人生の逆転”は、確かに魅力的な言葉だ。
けれど、その言葉が誰かに仕掛けられたものであるなら、自由を得るどころか、
逆に「誰かの物語」に巻き込まれてしまうこともある。

焦らず、立ち止まり、考える時間を持つこと。
誰かの言葉の中に、自分の不安が入り込んでいないかを確かめること。

それが、情報に飲み込まれないための最初の“予防線”になる。

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